製薬会社で20年以上、新薬の研究開発に携わった経験をもとに、科学的根拠に基づいた糖尿病関連の情報をお伝えしています。
糖尿病治療では、日本糖尿病学会や厚生労働省も示しているように、食事療法と運動療法が基本です。

※「GLP-1痩せ薬」は一般に使われる呼び方で、正式な医薬品分類名ではありません。本記事では、肥満症治療に使われるGLP-1受容体作動薬、およびGIP/GLP-1受容体作動薬を含めて分かりやすく説明します。
結論|GLP-1関連薬の美容・痩身目的での安易な使用には注意が必要です
GLP-1関連薬は、2型糖尿病や一定の条件を満たす肥満症の治療に使われる医薬品です。問題なのは薬そのものではなく、承認された目的や条件を外れて「手軽な痩せ薬」として使用することです。
2026年6月、厚生労働省も医療機関等に適正使用の徹底を求める通知を出しています。
はじめに
ネットで検索すると、
- 自宅で完結?
- 手軽に痩せられる?
と、手軽で簡単にダイエットできると「GLP-1で痩せた」「GLP-1で痩身」「GLP-1ダイエット」が数多く表示されます。
GLP-1ダイエットとは糖尿病治療薬であるGLP-1受容体作動薬を用いた減量法なのです。
先日、日本糖尿病学会は、GLP-1関連薬の美容・痩身目的での適応外使用について、
薬剤の適正な処方と使用が必要
との見解を公表しています。
さらに、日本医師会、医薬品医療機器総合機構(PMDA)が注意喚起を行っており、
国民生活センターには苦情が寄せられているのです。
GLP-1はグルカゴン様ペプチド-1(Glucagon Like Peptide-1)の略で、膵臓からインスリン分泌を促すホルモンの一つです。
さらに、GIP受容体への作用も併せ持つ薬もあり、これらも含めてGLP-1関連薬で統一しています。
2026年追記|厚生労働省も適正使用を改めて通知
この記事を最初に書いた2023年以降、GLP-1関連薬を取り巻く状況は大きく変わりました。
現在は、ウゴービやゼップバウンドなど、一定の条件を満たす肥満症患者を対象に正式承認された治療薬もあります。
その一方で、2型糖尿病治療薬のマンジャロなどを美容・痩身目的で使用する自由診療やオンライン診療の広告がネット上で目立つようになっています。
厚生労働省は2026年6月16日、「GLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用について」を発出し、一部の医療機関で2型糖尿病や肥満症の治療目的以外に美容・痩身目的で使用されている実態があるとして、都道府県などを通じて医療機関等への周知と適正使用の徹底を求めました。
👉 厚生労働省:GLP-1受容体作動薬等の適正使用について(2026年6月)
同日、厚生労働省は一般向けにも「マンジャロは糖尿病のお薬です」と注意喚起しています。
なお、肥満症に正式承認された薬と、糖尿病治療薬を美容・痩身目的で適応外使用することは分けて考える必要があるのです。
日本糖尿病学会が見解を公表「薬剤の適正な処方を」
多くのクリニック等で行われているGLP-1ダイエットは、糖尿病治療薬であるGLP-1受容体作動薬などを、美容・痩身目的で使用する自由診療として広がったものです。
適応外使用とは,承認されている医薬品を、その承認内容の範囲外で使用することです。
日本糖尿病学会は、血糖低下薬であるGLP-1受容体作動薬が、適応外である痩身・減量目的での処方を宣伝する医療広告が散見されるのを受け、減量についての見解を公表しました。
GLP-1 受容体作動薬および GIP/GLP-1 受容体作動薬の適応外使用に関する
日本糖尿病学会の見解
一般社団法人 日本糖尿病学会 ⇒ 日本糖尿病学会の見解
日本糖尿病学会は、クリニックなどでおこなわれているGLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬を適応外使用したGLP-1ダイエットについて、
不適切な薬物療法により患者さんの健康を脅かす危険があることから、
医師は国内承認状況を踏まえて薬剤を適正に処方するよう求めた
のです。
さらに、現在は、ウゴービやゼップバウンドなど肥満症に正式承認された治療薬がありますが、対象となる患者や使用条件は厳格に定められています。
そもそもGLP-1関連薬とは何か?
GLP-1は食事により腸から分泌されるホルモンの一つです。
GLP-1には、
- 血糖値に応じてインスリン分泌を促す
- 胃から食べ物が送り出される速度を遅くする
- 脳に働いて食欲を抑える
- 満腹感を持続させる
などの作用があります。
この働きを利用したのが「GLP-1関連薬(GLP-1受容体作動薬)」なのです。
GLP-1関連薬は、もともとは2型糖尿病治療薬として開発されたのですが、体重減少作用が大きいことが分かり、肥満症を対象とした製剤も開発されたという経緯なのです。
マンジャロなどのGLP-1関連薬の開発のヒントとなったのは、アメリカ毒トカゲの唾液の毒液成分でした。
そのトカゲは砂漠に住み、年に数回だけドカ食いをするのです。通常なら血糖値が爆上がりするのですが、外敵を倒す毒唾液には「血糖をコントロールし次の食事まで数ヶ月間の代謝を保つ」という成分が含まれることが分かったのです。科学者たちはこの成分から「血糖値を下げる成分」だけを抜き出し、さらに効果が持続するように改良したのです。

日本で承認されたGLP-1関連薬は5種類
同じ成分や似た作用を持つ薬でも、承認された目的(適応症)や用量は同じではありません。
国内で承認されたGLP-1関連薬は5種類あります。
- 2型糖尿病治療薬:3種類
- 肥満症治療薬:2種類
なのです。
すなわち、「マンジャロをダイエット目的で使う」ことは承認されておらず、
日本でのGLP-1関連薬の抗肥満薬としての承認・普及は米国や欧州に比べて適用条件も非常に厳しく制限されています。
日本医師会はGLP-1ダイエットに懸念を表明
インターネットやLINEなどでは、
「スマホ完結」
「○mgが○円」
「業界最安水準」
などと、GLP-1関連薬による痩身目的での使用を謳った販売が目に付きます。
日本医師会は2022年6月に、糖尿病治療薬であるGLP-1受容体作動薬がGLP-1ダイエットなどとして痩せ薬として適応外使用されていることについて強い懸念を表明しています。
日本医師会は、これまで糖尿病治療について啓発を進めてきたのですが、
糖尿病治療薬の一部が、個人輸入や美容クリニックで”痩せ薬”として不適切に使用されている実態があるが、
リスクおよび医薬品適正使用の観点からも、このような行為を禁止すべきである
と表明しています。
詳しく見る ⇒ 適応外使用によるGLP-1ダイエットについて
GLP-1受容体作動薬には副作用のリスクや禁忌があるとし、
健康を守るべき医師が、治療の目的を外れた使い方をすることは「医の倫理にも反する」と指摘したのです。
国民生活センターにはGLP-1ダイエットの苦情も
インターネットで「GLP-1ダイエット」を検索してみてください。
スマホで完結オンライン処方 – 医師と始める医療ダイエット
GLP-1で話題のメディカルダイエット。
専門医がオンラインであなたの状態に合わせ処方。 忙しい方に最適。スマホ一つで診察から処方、最短翌日から、、、
などがたくさん表示されます。
国民生活センターも2020年9月に、
「GLP-1受容体作動薬を痩身目的で消費者に自己注射させるケースがみられる」
として、
「患者を誤認に導き、不安や健康被害を与える行為に反対する」
と表明しています。
GLP-1ダイエットのオンライン診療について、
- 副作用が出たのでクリニックに相談したが医師の対応がない
- 冷蔵の薬品が常温で届いた
などとの苦情が寄せられたとし、
2020年8月20日に、
を公表しています。
現在も、芸能人やインフルエンサーによるGLP-1関連薬についての発信がSNSなどで見られます。
医薬品の効能・効果について虚偽・誇大な広告を行うことは薬機法で規制されています。SNS投稿でも、広告・宣伝として行われ、その内容によっては薬機法上の問題になる可能性があります。
2023年には、かまいたち山内さんのGLP-1ダイエットが話題になり、その後関連動画が削除されたこともありました。
👉 かまいたち山内さんのGLP-1ダイエット|当時の経緯と現在
GLP-1関連薬を抗肥満薬として使うには
先にも書きましたが、国内でもウゴービとゼップバウンドが抗肥満薬として承認されています。
これらを処方してもらうためには厳しい条件があるのです。
BMIが27以上か35以上
さらに、次のどちらかを満たす必要があります。
- BMI 27以上
- BMI 35以上
日本肥満学会の基準では、BMI 25以上が「肥満」、BMI 35以上は「高度肥満」に分類されます。
日本肥満予防協会の推定では、
「BMIが35以上の肥満」は日本成人のうち、約0.2%〜0.3%で1,000人に2〜3人程度、
「BMIが27以上」に絞ると、大まかな目安として成人男性の約15〜20%程度、女性の約7〜10%程度が含まれると考えられているようです。
さらに肥満関連疾患があること
GLP-1関連薬が抗肥満薬として適用になるにはBMIの基準だけではありません。
BMIが35以上の肥満者では、さらに、高血圧、脂質異常、糖尿病などが併発していることが条件で、
BMI27以上の場合にも、耐糖能障害、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症・痛風、冠動脈疾患、脳梗塞、脂肪性肝疾患、月経異常・不妊、睡眠時無呼吸症候群、運動器疾患、肥満関連腎臓病などの健康障害があることが条件として付けられているのです。
保険診療では食事療法や運動療法も
さらに、保険診療となるとさらに厳しくなり、
原則として、
- 治療計画を作る
- 食事療法・運動療法を行う
- 管理栄養士による栄養指導を受ける
- それを6か月以上続けても十分な減量効果が得られない
という経過が必要なのです。
あなたは単なる肥満かもしれない|肥満と肥満症は違う
肥満とは、「 体に脂肪がたくさんついた状態」のことで、病気ではありません。
肥満の基準とは、「BMIが25以上」で、 体型や体重の数値のことで病気ではないのです。
一方、
肥満症とは、
・ BMI 25以上
・高血圧・糖尿病・脂質異常症などの健康障害がある
・内臓脂肪がとても多くて将来病気になるリスクが高い
・ 医師による治療や体重を減らすことが必要な病気
あなたは肥満症ですか?
成人の約40%以上が「BMIが30以上の肥満」に該当するといわれる米国とは大きく事情が異なるのです。
自己投与では副作用が心配
確かにGLP-1関連薬には明らかな減量効果があるようです。
しかし、副作用もあるのです。
GLP-1関連薬の比較的よくみられる副作用は、
- 吐き気
- 嘔吐
- 下痢や便秘
- 腹部の不快感
- 食欲低下
などの消化器症状が挙げられています。
また、頻度は高くありませんが、注意すべき重大な副作用として、
- 急性膵炎
- 胆嚢炎・胆管炎などの胆道系疾患
- 腸閉塞を含むイレウス
- 嘔吐や下痢に伴う脱水・急性腎障害
などがあり、自宅で自己投与するのは危険も伴うのです。
👉 マンジャロの適応外使用は危険|痩せる目的で安易に使わない
GLP-1関連薬の医学的な位置づけ、ウゴービ・ゼップバウンド・マンジャロの違い、保険適用や効果については、次の記事で詳しくまとめています。
まとめ
この記事を書いた2023年当時から、日本糖尿病学会、日本医師会、国民生活センターなどは、糖尿病治療薬を美容・痩身目的で安易に使用することに注意を呼びかけてきました。
その後、肥満症に正式承認されたウゴービやゼップバウンドが登場しましたが、これは「誰でも痩せるためにGLP-1関連薬を使ってよい」という意味ではありません。
2026年6月には厚生労働省も、GLP-1受容体作動薬等の美容・痩身目的での適応外使用について、医療機関等に改めて適正使用を求めました。
糖尿病や肥満症の治療薬は、価格や手軽さだけで選ぶものではありません。自分が治療の対象なのかを医師に確認し、承認された目的・用法に基づいて適切に使用することが大切です。
最終更新日:2026年8月 初掲載日:2023年5月











