糖質制限食は糖尿病で一番効果が有る食事療法でしょうか?
今日もご覧になっていただきありがとうございます。
臨床の経験はないのですが20年以上にわたって製薬会社で新薬の研究開発を行っていた けんぞう です。
糖尿病治療薬の開発を行っていた私が言うのも何ですが、
糖尿病の治療では食事療法と運動療法が基本なのです。
今日も科学的根拠に基づいた糖尿病関連の情報をお伝えいたします。
はじめに
糖質ゼロで血糖値がみるみる下がる!
糖質制限食は糖尿病の血糖値をぐんぐん下げる。
糖質制限食は、糖尿病の血糖値をそんなに下げるのでしょうか?
糖質制限食は安全ですか?
糖質制限食とは
糖質制限食とは、いろいろの考え方があるのですが、つまるところ、
「食後に血糖を上げるのは炭水化物(糖質)だけだから、献立からできるだけご飯やうどん、パンを控えれば、血糖は上がらない、だから血糖のコントロールはよくなる」、という考えです。
2005年に、高雄病院理事長・江部康二氏が、
「主食を抜けば糖尿病は良くなる!」という本を主筆し、
「炭水化物(糖質)制限食」を提唱したことに始まるようで、
その後多くの方が沢山の本や指導書を出しています。
糖質制限食の具体的な例は、
- 朝食と夕食は主食抜き。昼食のみ適量の主食を取る
- 昼食の主食以外、でんぷんや砂糖などの糖質の多い食品は不可
- 副食は蛋白質と脂肪を主に含む食品を中心にする
- 脂肪の摂取を特に制限しないので、炒め物、揚げ物を含め、ほとんどの調理法が可
- 晩酌は、焼酎やウイスキーなどの蒸留酒を適量ならば可
というもので、
白米やパンのような糖質は極力摂らずに、その他は自由に食べ、特にカロリー制限も設けず、腹八分目に、、という食事法です。
この食事法で、
- 体重が激減
- 高血糖が直ちに正常化
というのですから、血糖値が高い方は興味が引かれます。
さらに、
- 糖質はゼロに!
- 糖が脳のエネルギーだというのはウソ!
- 1日3食は常識か?
- ご飯、パン、うどんは毒だ!
- メインは肉と魚、、
と非常に過激なものまでありますが、どうなんでしょうか、、、
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糖尿病の食事療法は日米で違う
ちょっと前の話になって恐縮なのですが、2013年3月に、日本糖尿病協会の主催で「インスリンフォーラム 2013」が東京で開催され、北里研究所病院糖尿病センターの山田悟センター長が、糖質制限食について講演し、私も聴講させて貰いました。
その時のメモを見ながら、分かりやすく記載しますね、、
国内のおける糖尿病食のスタンダードは、日本糖尿病学会が提唱している、「カロリー制限食」です。これは、前にも紹介したように、80カロリーを基準にした、『食品交換表』を1単位として摂取エネルギー内で献立(食品)を組み立てるものです。
詳しく見る >>> 糖尿病の血糖値は必ず食事で下がります
この『食品交換表』をベースにしたカロリー制限食のこうかは明らかなのですが、入院中や厳しい指導下では実践できても、退院後には継続できない患者も多いのだという。
一方、糖尿病治療の先進国である米国糖尿病学会は、2007年に糖尿病治療ガイドラインを発表しているが、カロリー制限食とともに糖質制限食も短期の体重コントロールに効果が有るとし、「糖質制限食は短期的には体重減を引き起こし、減量の維持・管理は脂質制限食と同等だ」と述べているが、「長期的な影響については不明な点も有る」と注意を喚起しています。
山田氏の話では、糖質制限食は、かつてはダイエット法の1つとして認知されていたが、2008年のイスラエルの研究グループによる「DIRECT試験におけるランダム比較試験」を契機として糖尿病患者でも有効だとして認知されるようになったのだそなのです。
この試験というのは、40~65歳、BMI27以上、2型糖尿病、冠動脈疾患を有す、
322人を対象とした食事療法試験で、
- 脂質制限食群(カロリー 男性1,800kcal、女性1,500kcal、脂質比率が30%以下)
- 地中海食群(カロリー 男性1,800kcal、女性1,500kcal、脂質比率35%以下)
- 糖質制限食群(カロリー制限なしで糖質が120g/日以下)
の3群に分け、
2年間の食事療法を行ったところ、
- 糖質制限食群がもっとも体重減量に有効
- 糖質制限食群では、トリグリセライドやHDLコレステロールに対しても改善が顕著
という結果が得られたのだそうです。
国内では、
- 食事療法でまず勧められるのはカロリー制限食
- カロリー制限食がうまくいかないときに糖質制限食を検討
するという位置づけになっているうぴです。
糖質制限食の歴史やエビデンスも少なく、解決すべき課題も残されているが、この10年で糖尿病治療のための栄養バランスは、脂質制限食から糖質制限食に変わってきている、山田氏は強調しています。
米国の、「糖質は制限するがカロリーには制限無し」の食事法は、「カロリー摂取量が過剰になり悪影響を及ぼすのではないか」との懸念があるが、
山田氏は、「実際に糖質制限食を行うと、糖質制限によりカロリー摂取量が増えるということはない」、「米国の試験でも、糖質制限食のカロリー摂取量はカロリー制限食群より多かったが、試験前の摂取量よりも減少していた」と説明していました。
詳しく見る ⇒ 糖尿病の食事療法は糖質制限がベスト
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素人療法は危険です
炭水化物の摂取量を極端に減らす「糖質制限食」は、短期間で体重減少や高血糖の改善がえられるとして、減量や生活習慣病の食事療法として注目されているのだが、長期的な効果や安全性については、不明な点も多いのです。
国立国際医療研究センター糖尿病研究連携部は、「糖質制限食は長期的な効用は認められず、むしろ死亡リスクが有意に増加する」という研究結果を発表しています。
この研究では、糖質制限食に関する海外の医学論文から、5年以上追跡して死亡率などを調べた9論文を解析した結果、27万2216人(女性66%、追跡期間5~26年)のうち、総死亡数は1万5981人で、
低糖質群と高糖質群について比較したところ、
- 低糖質群では心血管障害による死亡リスクは10%高い
- 低糖質群では高糖質群に比べて死亡率が上昇
の結果が得られたというのです。
ただし、解析の対象者は糖尿病患者でないこと、海外の研究で食習慣の違う日本人と相違がある可能性も有るとコメントしています。
北里研究所病院糖尿病センターの山田氏も、
- 糖質制限食は専門家の指導のもとで行う必要がある
- 糖質制限食では蛋白質の摂取が増え腎臓病の患者で歯不適
- 血中脂質や腎機能、肝機能をチェックしながらすすめる必要がある
と述べている。
もう一例、専門家の意見をご紹介しましょう。
安田女子大学家政学部管理栄養学科の村上文代教授は、
海外の論文を精査し糖質制限食の全身への影響について考察したところ、
炭水化物を制限する食事を長期間続けると、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高まる結果を得たとのことだ。
糖質制限食では必要なエネルギーを蛋白質・脂質に求めることになりますから、当然の摂取量も増加し、飽和脂肪酸や塩分の摂取量が増えるだけでなく、食物繊維の不足や、炭水化物を多く含む食品に含まれるビタミンやミネラルも不足することになります。
蛋白質の分解産物である尿素は腎臓から尿中に排出されるのですが、蛋白質の摂取増加は腎臓に負担をかけ、腎機能が低下している人にとっては深刻な問題なのです。
さらに糖質制限食では、脂肪が分解されてできる「ケトン体」が増加します。ケトン体は肝臓で脂肪が分解されて作られ、血液中ではアセトン、アセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸などとなって骨格筋、心臓、腎臓などのエネルギー源となるのですが、蓄積すると体液が酸性になり「ケトアシドーシス」という看過できない状態になるのです。
ですから、素人判断で極端な糖質制限を行うことは非常に危ないことなのです。
短期間で体重を減らしたり、血糖値を下げたりすることは実際に可能なことなのですが、糖尿病患者や糖尿病予備軍の方は、むやみに炭水化物を減らすのではなく、『食品交換表』と連携させて食事を管理する必要があるのです。
糖尿病の食事療法は2週間や3週間で終了するものではなく、1生続けるべき健康食、長寿食なのです。
ですから、糖質制限食に取り組むときには、素人判断ではなく、医師の指導下、あるいは信頼の置ける食事法プログラムに沿って実行してください。
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