製薬会社で20年以上、新薬の研究開発に携わった経験をもとに、科学的根拠に基づいた糖尿病関連の情報をお伝えしています。
糖尿病治療では、日本糖尿病学会や厚生労働省も示しているように、食事療法と運動療法が基本です。
はじめに
食後血糖値の上昇を抑える食べ方として、よく知られているのが「ベジファースト」です。
「野菜から先に食べる」という簡単な方法で、実践している人も多いと思います。
そして最近よく聞くのが、「カーボラスト」という食べ方です。
「ベジファースト」と「カーボラスト」は同じことを言っているようなのですが、何が違うのでしょうか?
また、食後高血糖を抑える効果はどちらが高いのでしょうか?
食後には健康の人でも血糖値が上昇しますが、糖尿病や糖尿病予備軍の人では急上昇し、糖尿病を悪化させる大きな要因になるので、できるだけ食後の血糖値を上げない「食べ物」や「食べ方」を工夫する必要があるのです。👉健康診断では分からない食後高血糖とは
ベジファーストとカーボラストは何が違う?
「ベジファースト」とは、食後高血糖を急激に上げないように、食事の最初にサラダなどの野菜(ベジタブル)を先に食べる食べ方です。
一方、「カーボラスト」は、野菜や肉・魚などのおかずを先に食べ、主食となるご飯やパンなどの炭水化物(カーボハイドレイト)を最後に食べる食事法です。
野菜を先に食べるとするベジファーストと、炭水化物を最後に食べるカーボラストは非常に似ているようなのですが、両者の違いをまとめると、
ベジファーストでは「とにかく野菜を食べる」であり、カーボラストでは「とにかく炭水化物を最後に」ということになります。
プロレスラーのアントニオ猪木さんは、食事のはじめに千切りキャベツをドンブリ一杯食べるベジファーストで糖尿病を寛解したことは有名ですし(👉アントニオ猪木が糖尿病を克服した方法)
元巨人の元木大介さんも、「カーボラスト」を約5年間続け、減量と糖尿病を克服したことが自身のインスタやテレビ番組で紹介されました(👉 元木大介が実践した「カーボラスト」とは?)。
なお、「カーボラスト」では、おかずを全部食べ終わるまで炭水化物を食べてはいけないのではなく、研究によっては20分間はダメ、5分間はダメとかの制限もありますが、近年では待ち時間を設けない方法も研究されているようです。
どうして炭水化物がいちばん最後なのか?
ベジファーストでもカーボラストでも注目されるのは「炭水化物(カーボハイドレート)」です。
それは、食後に血糖値を上げるのは炭水化物だからです。
炭水化物は消化酵素によって単糖類(グルコース)に分解され、腸から吸収されて血糖となるのです。
炭水化物であるご飯を食べると血糖値は上がりますが、蛋白質や脂質であるステーキを食べても血糖値には変化がありません。
糖尿病の治療薬の、グルコバイやベイスンなどのα-グルコシダーゼ阻害薬は、小腸での糖の消化・分解を遅らせ、糖の吸収をゆっくりにして血糖値の上昇を抑える薬なのです。
厚労省のサイトからベジファーストの記述が消えていた
厚生労働省は、「日本人の食事摂取基準 2020年版」には、
食物繊維に富んだ野菜を先に食べることで、食後血糖値の上昇を抑え、HbA1cや体重にも効果が報告されていると、ベジファーストを奨励する記述がありました。
しかし、2025年版では、このベジファーストに関する記述が削除されました。
厚生労働省ではその理由には述べていませんが、
北里大学糖尿病センター長の山田悟氏は、ベジファーストに関する研究を改めて精査したことが関係しているのではないかと推察しています。
ベジファーストとカーボラストの食後高血糖に対する効果を直接比較
では、実際にベジファーストとカーボラストの食後血糖値に対する効果に違いはあるのでしょうか。
結論から先に述べると、
食後高血糖を抑える効果はベジファーストとカーボラストでほぼ同等でした。
前糖尿病の15人を対象に、ベジファーストとカーボラストを直接比較した研究があります。
この研究では、同じ人が同じ食事を食べる順番だけ変えて比較しました。
1回目[炭水化物を最初]: 炭水化物 → 10分後 → たんぱく質+野菜
2回目[カーボラスト] : たんぱく質+野菜 → 10分後 → 炭水化物
3回目[ベジファースト]: 野菜 → 10分後 → たんぱく質+炭水化物
その結果、1回目の炭水化物を最初に食べた場合の食後血糖値のピーク値を比較すると、
- カーボラスト :45.8%低下
- ベジファースト:43.1%低下
という結果が得られたのです。
さらに、カーボラストとベジファーストを直接比較しても、
食後血糖値のピーク値や食後3時間までの血糖上昇に両者の差はなく、
ベジファーストもカーボラストも食後高血糖を抑える効果はほぼ同じといえそうです。
ベジファーストとカーボラストではなぜ食後高血糖が抑えられるのか?
ベジファーストとカーボラストはどの様な作用で食後高血糖を抑えるのでしょうか?
ベジファーストでは食物繊維が糖の吸収を穏やかにする
ベジファーストが食後高血糖を抑えるのは、野菜に含まれる食物繊維が胃腸での糖質の吸収スピードを遅らせるからです。
糖尿病では食後高血糖を起こしにくいGI値の低い食品を摂ることが薦められます。
食物繊維が多い玄米や全粒粉はGI値が低く食後の血糖値を上げにくいからです。
ベジファーストもまさに、食物繊維の多い野菜を先に食べることによって、後から食べる炭水化物による血糖上昇を抑えようとするわけなのです。
カーボラストではGLP-1の分泌増加がカギか?
では、カーボラストでは体の中でどのような変化が起きているのでしょうか。
糖尿病患者16人を対象に、同じ食事を食べる順番だけ変えて比較した研究が行われました。
炭水化物を最初に食べた場合と比べて、カーボラストでは、
- 食後180分までの血糖の上昇が : 53%低下
- 食後血糖値のピーク値が、 : 54%低下
- 食後のインスリンの上昇が、 : 低下
- GLP-1分泌が、 : 増加
という結果が得られました。
この研究では、カーボラストによってGLP-1が増加するとともに、食後の血糖上昇とインスリン上昇が抑えられました。
著者らは、食べる順番による血糖値への影響について、胃から食べ物が排出される速度や、炭水化物が吸収される速度などが関係している可能性があるとしています。
さらに、医学誌「Diabetologia」に発表された研究では、
糖尿病患者12人と健康人10人を対象に、米飯、魚・肉の食べる順番によって、
・食後血糖値、GLP-1、胃からの排出速度
がどのように変わるかを調べました。
その結果、
・魚や肉を食べた15分後に米飯を食べると食後血糖値の上昇が抑えられる
・魚や肉を先に食べるとGLP-1の分泌が増加する
・胃からの食べ物の排出速度が遅くなる
ということが判明し、
カーボラストでは、
①魚や肉を先に食べることでGLP-1の分泌が増加し、
②胃から食べ物が排出される速度が遅くなり、
③食後血糖値の上昇も抑えられる
と言うことが分かったのです。
著者らは、GLP-1やグルカゴンなどの分泌を介した胃排出の遅延が、食後血糖値の上昇を抑えることに関係していると推察しています。
GLP-1とは、Glucagon-like peptide-1(グルカゴン様ペプチド-1)の略で、食事後に小腸から分泌される消化管ホルモンの一種です。
GLP-1の働きは、
・血糖値を下げるインスリンの分泌促進
・血糖値を上昇させるグルカゴンの分泌抑制
・食欲を抑制(満腹感の持続)
・胃の排出速度を遅くする
などの作用が有ります。
週1回の注射で激ヤセなどとネットで評判になっているマンジャロはGLP-1の分泌を促進する医薬品です。
👉 マンジャロは痩せ薬なのか?
カーボラストの最新の研究結果
カーボラストについては、その後も研究が続いています。
2025年には、米国糖尿病学会(ADA)が発行する医学誌「Diabetes Care」に、2型糖尿病患者を対象としたカーボラストの研究が掲載されました。
先ほど紹介した研究では、魚や肉を食べてから15分後、あるいは、たんぱく質や野菜を食べてから10分後に炭水化物を食べるように時間の間隔を設けていました。
野菜+たんぱく質を食べる → 10分待つ → 炭水化物を食べる
しかし、この研究では、そのような待ち時間を設けず、
① 野菜+たんぱく質を食べる → つづいて → 炭水化物を食べる
② 炭水化物を食べる → つづいて → 野菜+たんぱく質を食べる
という2つの方法を各々6日間ずつおこなったのです。
その結果、
①の炭水化物を後に食べるカーボラストでは食後血糖値のピーク値が44%低下したのです。
さらに、日常生活でカーボラストを実践した結果、
血糖値が目標範囲内に収まる割合が78.6%から84.8%へ増加し、
血糖変動の指標も23.0%から19.2%へ低下したのです。
この成績から研究者はカーボラストでは副食と主食の待ち時間を設けなくても食後血糖値の上昇が抑えられると述べています。
まとめに替えて【筆者から一言】
ここまでの研究を見ると、ベジファーストとカーボラストのどちらが優れていると決める必要はないと思われます。
ですから、あなたの食生活に合う方、長く続けられそうな方を選べば良いのではないでしょうか。
私は、日常生活ではカーボラストの方が取り入れやすいと感じています。
ベジファーストでは、まず野菜があることが前提になります。
一方、カーボラストでは、まず野菜やおかずから食べて、「ご飯、パン、麺などの主食を最後にする」ことを意識すればよいからです。
さらに最新の研究では、野菜やおかずを食べた後に炭水化物を食べるまでに10分待つ必要はなく、待ち時間を設けないカーボラストでも食後血糖値への効果が確認されているからです。
自宅だけでなく、レストランなどの外食でも取り入れやすい方法ではないでしょうか。
ただ、天丼や牛丼などの丼物ではチョット無理かも、、、その時はサラダを追加してベジファーストに。
毎日の食事ですから、自分に合った方法、長く続けられる方法を選ぶことが大切だと思います。
参考文献
- Kuwata H, et al. Meal sequence and glucose excursion, gastric emptying and incretin secretion in type 2 diabetes: a randomised, controlled crossover, exploratory trial. Diabetologia. 2016;59(3):453-461.
PubMed - Shukla AP, et al. Carbohydrate-last meal pattern lowers postprandial glucose and insulin excursions in type 2 diabetes. BMJ Open Diabetes Research & Care. 2017;5:e000440.
PubMed - Shukla AP, et al. The impact of food order on postprandial glycemic excursions in prediabetes. Diabetes, Obesity and Metabolism. 2019;21(2):377-381.
PubMed - Carbohydrates-Last Food Order Improves Time in Range and Reduces Glycemic Variability. Diabetes Care. 2025;48(2):e15-e17.
Diabetes Care















