製薬会社で20年以上、新薬の研究開発に携わった経験をもとに、科学的根拠に基づいた糖尿病関連の情報をお伝えしています。
糖尿病治療では、日本糖尿病学会や厚生労働省も示しているように、食事療法と運動療法が基本です。
はじめに
「糖尿病」という病名について、考えたことがありますか?
私たちは当たり前のように「糖尿病」と呼んでいますが、この名前は100年以上にわたって使われてきました。
ところが現在、この「糖尿病」という呼び方を変えようという動きがあります。
なぜ、長年使われてきた病名を変えようとしているのでしょうか。
なぜ「糖尿病」という名前を変えるのか?
日常で当たり前に使われている「糖尿病」という病名は、
1907年(明治40年)の第4回日本内科学会で正式に統一名称として定められました。
日本最古の糖尿病患者は、平安時代の藤原道長(966年〜1027年)だと言われていますが、明治初期までは、
・消渇(しょうかち)
・渇病
・尿崩
・甘尿
・蜜尿病
など、さまざまな名前が使われていたようです。
日本糖尿病学会が定める糖尿病の正式な英語名は「Diabetes mellitus」です。
ギリシャ時代に、「通り抜ける・流れる」を意味する 「diabetes(ダイアベティス)」 と名付けられ、後に「蜜のように甘い尿」を意味する「mellitus(メリトゥス)」がつけられたそうです。
つまり、日本語の「糖尿病」だけでなく、英語の病名も、もともとは尿の特徴に由来する名前なのです。
どうして糖尿病の名前を変える必要があるのか
日本糖尿病学会と日本糖尿病協会は、糖尿病に対する偏見やスティグマをなくすためとして、2019年から合同でアドボカシー活動を進めています。
#スティグマとは:古代ギリシアで、罪人や奴隷の体に文字などの焼印を強制的に押した「印(しるし)」に由来する言葉で、特定の属性や疾患、特徴に対して周囲や社会が否定的な「烙印(らくいん)」を押し、偏見や差別、不当な扱いを与えること
#アドボカシー活動とは:Advocacy活動とは、社会的立場が弱い人々に代わって権利を主張し、政府や行政への政策提言や世論の意識啓発を行う活動のことです。
その中で、現在の「糖尿病」という病名が、糖尿病に対する誤解や誤ったイメージを生み出す可能性があると指摘しています。
具体的には、
「自己管理ができていない」「不摂生が原因」といった誤ったイメージや偏見が患者を孤立させて受診や治療をためらわせる原因になっているというのです。
日本糖尿病ネットワークのアンケート調査によれば、
1型、2型を含む糖尿病患者の40%が、
・糖尿病であることによって偏見や差別を受けたことがある
と答えており、
・生命保険や住宅ローンを加入拒否された
・学校や仕事場などで不愉快な思いをした
・病気について周りに話せない・協力が得られない
・就職や結婚などで不当な扱いを受けた
と答えているのです。
日本糖尿病学会や日本糖尿病協会では、糖尿病という病名に対する忌避感を持つ人がいることや、「生活習慣だけが原因で発症する病気」といった誤解から、不適切なレッテルを貼られて苦しむ人がいることを指摘し、
糖尿病という疾患名の見直しをするアドボカシー活動を進めているのです。
糖尿病の新しい名前はダイアベティス?
2023年9月、日本糖尿病学会とJADECは、糖尿病の新しい名前の候補を提案しました。
その候補は、
・ダイアベティス
・ディアベティス
・ディアベ
・DM
・糖代謝症候群
などで、さまざまな候補が検討されているようです。
糖尿病学会の資料によると、
・学術的に正しいこと
・国際的に受け入れられること
・略称や診療科名として使用する場合も想定できること
・社会のスティグマ除去に効果的であること
などを考慮して検討された結果、
国際標準を考慮した「ダイアベティス」が有力候補となっており、
今後広く議論していくとしています。
ダイアベティスは日本糖尿病学会が定めている糖尿病の学術英名「Diabetes mellitus」の一部のカタカナ表記です。
医師が推す新しい名前は高血糖症や糖代謝異常症
「糖尿病」から「ダイアベティス」への名前の変更について、
医師1,467人を対象とした意識調査では、
・46.15%は、呼称変更に反対
・40.01%は、「変更には賛成だが『ダイアベティス』には反対」と回答しています。
医師がダイアベティスの代わりの名前として挙げた名前は、
・糖代謝異常症
・高血糖症
でした。
なお、一般人を対象とした調査では、「ダイアベティス」が何を意味するか分かると答えた人は約25%しかいなかったと報告されています。
日本糖尿病学会や日本糖尿病協会はダイアベティスに決定か?
「糖尿病」が「ダイアベティス」に変更されたわけではありませんが、
2026年5月、日本糖尿病学会は公式マスコットキャラクターを「ダイア・ベティ」と命名したとプレスリリースしました。
その中で、名前のダイア・ベティは「ダイアベティス(diabetes)」に由来すると説明されています。
👉日本糖尿病学会 公式マスコットキャラクター「ダイア・ベティ」誕生のお知らせ
日本糖尿病協会も、2026年度のACジャパンの広告で「糖尿病からダイアベティスへ」というメッセージを使用することを明らかにし、
テレビ、新聞などのCMにおいて、「糖尿病からダイアベティスへ」というメッセージを挿入し、新しい呼称である「ダイアベティス」の浸透を目指していくと述べています。
まとめ
私の研究所時代には研究者同士では糖尿病のことを「ディアベ」と呼んでいましたので、ダイアベティスに余り違和感は感じないのですが、
一般の人が突然「あなたはダイアベティスですよ」といわれても糖尿病のことだと分かるのでしょうか。
糖尿病に対するスティグマがあるということは知りませんでしたが、英語にして隠してしまえば良いのか、という疑問が残ります。
糖尿病はもはや国民病とも言われる病気ですから、個人的には、「高血圧症」に対応して「高血糖症」が分かりやすいように思います。
「糖代謝異常症」という名前もありますが、患者さんの立場からすると、「異常」という言葉には抵抗を感じる人もいるのではないでしょうか。
「糖尿病」「ダイアベティス」「糖代謝異常症」「高血糖症」、皆さんなら、どんな名前が良いと思いますか?
参考
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」糖尿病に対するスティグマとアドボカシー活動
- JADEC(日本糖尿病協会)「JADEC(日本糖尿病協会)とは」
- 農畜産業振興機構「砂糖と健康~砂糖と甘味の疑問を解説~(後編)」
- 糖尿病ネットワーク「『糖尿病』という名前は変わるのか?呼称変更の理由とこれから」(2026年9月29日)








