製薬会社で20年以上、新薬の研究開発に携わった経験をもとに、科学的根拠に基づいた糖尿病関連の情報をお伝えしています。
糖尿病治療では、日本糖尿病学会や厚生労働省も示しているように、食事療法と運動療法が基本です。
結論|マンジャロは2型糖尿病の治療薬です
マンジャロは、日本で「2型糖尿病」の治療薬として承認された医薬品です。
問題なのはマンジャロそのものではなく、糖尿病ではない人が「痩せたい」という目的で使用する美容・痩身目的の適応外使用です。
厚生労働省も2026年6月16日、「マンジャロは糖尿病のお薬です」と注意喚起しています。
👉 GLP-1ダイエットに相次ぐ注意喚起|厚労省・糖尿病学会などの見解
本稿では「GLP-1関連薬」で統一しますが、正式には「GLP-1受容体作動薬」です。
GLP-1はグルカゴン様ペプチド-1(Glucagon Like Peptide-1)の略で、膵臓からインスリン分泌を促すホルモンの一つです。
さらに、GIP受容体への作用も併せ持つ薬もあり、これらも含めてGLP-1関連薬で統一しています。
はじめに
かまいたちの山内さんがGLP-1ダイエットをしていたことを公表しました。
GLP-1ダイエットとは、糖尿病治療薬などのGLP-1関連薬を、美容・痩身目的で使用する方法として広がったものです。
GLP-1ダイエットは、
- 「簡単に痩せられる」
- 「リバウンドしにくい」
などと宣伝され、若い女性を中心に注目されてきました。
しかし、本当にそのような使い方をしてよいのでしょうか。
この記事では、マンジャロなどGLP-1関連薬を美容・痩身目的で安易に使用する問題について説明します。
マンジャロが「痩せ薬」のように広がっている
インターネットでは、
- 「マンジャロ2.5mg ○円」
- 「1本○円」
- 「業界最安水準」
- 「スマホ完結」
- 「当日予約可能」
といった、美容・痩身目的の自由診療広告を数多く見かけます。
SNSでも芸能人やインフルエンサーの体験談・投稿を通じてマンジャロの名前が広がり、「糖尿病治療薬」より「痩せる薬」というイメージを持つ人も増えています。
しかし、マンジャロの国内承認適応は2型糖尿病です。
同じGLP-1関連薬でも、肥満症治療薬として承認されているのはゼップバウンドです。また、セマグルチドではウゴービが肥満症治療薬として承認されています。
つまり、肥満症を薬で治療すること自体が問題なのではありません。問題は、承認された目的とは異なる美容・痩身目的で、マンジャロなどを安易に使用することです。
👉 抗肥満薬GLP-1の現状|医学的知見・保険適用・効果を解説
そもそもGLP-1関連薬とは何なのか?
GLP-1とは食事により腸から分泌されるホルモンの一つです。
GLP-1には、
- 血糖値に応じてインスリン分泌を促す
- 胃から食べ物が送り出される速度を遅くする
- 脳に働いて食欲を抑える
- 満腹感を持続させる
などの作用があります。
この働きを利用したのが「GLP-1関連薬(GLP-1受容体作動薬)」なのです。
GLP-1関連薬は、もともとは2型糖尿病治療薬として開発されたのですが、体重減少作用が大きいことが分かり、肥満症を対象とした製剤も開発されたという経緯なのです。
オンライン診療・自由診療の広告は何が問題なのか
オンライン診療そのものが危険なのではありません。
オンライン診療は正式な診療方法の一つです。
問題は、「安い」「早い」「スマホだけで完結」といった手軽さが前面に出て、薬の適応、リスク、副作用、必要な診察や検査よりも、購入のしやすさが強調されるケースです。
厚生労働省は2026年6月16日の通知で、適応外の医薬品を用いた自由診療のウェブ広告について、治療内容・費用だけでなくリスクや副作用などの情報提供が必要であることを改めて示しました。また、虚偽広告、誇大広告、他院より優良であるとする比較広告などは禁止されています。
芸能人・インフルエンサーの発信にも注意
マンジャロはSNSでも大きな話題になっています。芸能人が「使いたい」と発言したことがニュースになったり、インフルエンサーがダイエット薬を勧めるような投稿をしたりすることで、医薬品が一般の商品と同じ感覚で受け止められやすくなっています。
しかし、有名人が紹介していることは、その人に医学的な適応があることや、見る人にも安全であることを意味しません。
また、薬機法第66条は、医薬品の効能・効果などについて虚偽・誇大な記事を広告・記述・流布することを「何人も」禁止しています。
そのため、インフルエンサーや芸能人によるSNS投稿であっても、単なる個人の感想ではなく広告・宣伝として行われ、その表現が虚偽・誇大な効能・効果の広告などに当たる場合には、薬機法違反に問われる可能性があります。
広告モデルや投稿者だから無関係とは言い切れません。
「有名人が使っている」「インフルエンサーが勧めている」という理由だけで薬を選ばないことが重要です。
厚生労働省が2026年6月16日に異例の注意喚起
こうした状況を受け、厚生労働省は2026年6月16日、「GLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用について」という通知を、各都道府県・保健所設置市・特別区の衛生主管部局長あてに発出しました。
通知では、一部の医療機関で2型糖尿病や肥満症の治療目的以外に美容・痩身目的で使用されている実態が確認されているとして、管内の医療機関等への周知と適正使用の徹底を求めています。
同日、厚生労働省は一般向けにも「マンジャロは糖尿病のお薬です」とSNSで注意喚起しています。
厚生労働大臣も会見で、マンジャロは2型糖尿病のみを効能・効果として承認されており、本来の目的以外で使用した場合には思わぬ健康被害が生じる可能性があると説明しています。
GLP-1を自己判断で使うことが危険な理由
GLP-1関連薬そのものが危険な薬という意味ではありません。
適切な患者に、適切な用量を、医師の管理下で使用すれば、肥満症や2型糖尿病の重要な治療選択肢になります。
問題になるのは、
- 医学的に肥満症ではない人が美容目的で使う
- 糖尿病薬を「痩せ薬」として適応外使用する
- 十分な診察や検査を受けずに使用する
- 自己判断で量を増減したり中止したりする
- 個人輸入などで入手した薬を使用する
といった使い方です。
厚生労働省は2026年6月、GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬について、一部の医療機関で2型糖尿病や肥満症の治療以外に美容・痩身目的で使用されている実態があるとして、改めて適正使用を求めています。
「痩せたらやめればいい」ではない
美容・痩身目的でマンジャロを使う場合、見落とされやすいのが投与をやめた後の体重です。
チルゼパチドを用いたSURMOUNT-4試験では、36週間で平均20.9%体重が減少しましたが、その後チルゼパチドを中止した群では、続く52週間で平均14.0%体重が増加しました。
つまり、薬で体重が減ったからといって、その効果が投与終了後もそのまま続くとは限りません。
「目標体重までマンジャロを使い、痩せたらやめればよい」という考え方には注意が必要です。
オンライン診療の広告では「1本○円」「初月○円」といった入口の価格が目立ちますが、実際には「いつまで使うのか」「中止後の体重をどう維持するのか」「長期使用になれば費用はいくらになるのか」まで考える必要があります。
副作用にも注意が必要
GLP-1関連薬では、吐き気、嘔吐、下痢、便秘、腹部の不快感、食欲低下などの消化器症状が比較的よくみられます。
また、頻度は高くありませんが、
- 急性膵炎
- 胆嚢炎・胆管炎などの胆道系疾患
- 腸閉塞を含むイレウス
- 嘔吐や下痢に伴う脱水・急性腎障害
などにも注意が必要で、自己判断で自己注射するのにはリスクも伴うのです。
体重を減らす効果だけを見て使用を判断するのではなく、自分が治療の対象なのか、副作用や併用薬に問題がないかを医師に評価してもらうことが重要です。
SNSでの個人売買・個人輸入にも注意
厚生労働省は、マンジャロなどの医療用医薬品をSNS等で個人間売買することは違法であると注意喚起しています。
また、正規の流通経路を外れた医薬品では、偽造品、品質が劣化した製品、成分や含量が不明な製品などの危険もあります。
さらに、美容・痩身目的の適応外使用で健康被害が生じた場合、医薬品副作用被害救済制度の救済対象にならない可能性があります。
「安く手に入るから」「知人から譲ってもらえるから」という理由で使用する薬ではありません。
まとめ|問題はマンジャロそのものではなく「適応外使用」
マンジャロは、日本で2型糖尿病治療薬として承認された医薬品です。適切な患者に医師の管理下で使用される重要な治療薬であり、マンジャロそのものを危険視するのは正しくありません。
問題なのは、マンジャロを承認された適応とは異なる美容・痩身目的で安易に使用する適応外使用です。
日本には、肥満症に正式承認されたウゴービやゼップバウンドがあります。肥満症の薬物治療を希望する場合は、「○mg○円」「スマホ完結」「業界最安水準」といった広告やSNSの体験談だけで判断せず、肥満症を適切に診療できる医療機関で、自分が治療対象なのかを確認することが大切です。
最終更新日:2026年8月 初掲載日:2023年4月












