製薬会社で20年以上、新薬の研究開発に携わった経験をもとに、科学的根拠に基づいた糖尿病関連の情報をお伝えしています。
糖尿病治療では、日本糖尿病学会や厚生労働省も示しているように、食事療法と運動療法が基本です。
結論|GLP-1関連薬は、糖尿病と肥満症の治療を大きく変えつつあります。
GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬は、もともと2型糖尿病治療から発展し、現在はウゴービやゼップバウンドなど、肥満症に正式承認された治療薬も登場しています。
一方、ネット上では2型糖尿病治療薬のマンジャロが「痩せ薬」のように宣伝されるケースが目立ちます。
この記事では、米国での急速な普及、日本での承認・保険適用、ウゴービ・ゼップバウンド・マンジャロの違い、効果と副作用まで、2026年8月時点の医学的知見と公的資料から整理します。
※「GLP-1痩せ薬」は一般に使われる呼び方で、正式な医薬品分類名ではありません。本記事では、肥満症治療に使われるGLP-1受容体作動薬、およびGIP/GLP-1受容体作動薬を含めて分かりやすく説明します。
米国では抗肥満薬が急速に普及
GLP-1関連薬が世界的に注目される大きなきっかけになったのが、米国での抗肥満薬の急速な普及です。
GLP-1はグルカゴン様ペプチド-1(Glucagon Like Peptide-1)の略で、膵臓からインスリン分泌を促すホルモンの一つです。
さらに、GIP受容体への作用も併せ持つ薬もあり、これらも含めてGLP-1関連薬で統一しています。
米国では、セマグルチドを成分とするウゴービが2021年、チルゼパチドを成分とするゼップバウンドが2023年に「肥満症・体重管理の治療薬」として承認されました。
臨床試験では、ウゴービでは15%前後、ゼップバウンドでは20%を超える体重減少が報告されるなど、従来の肥満症治療薬を大きく上回る効果が示され、肥満大国である米国では社会現象といえるほど注目されるようになりました。
毎日新聞でも、米国ではこれらの薬が「奇跡の減量薬」とも呼ばれ、ウゴービとゼップバウンドが抗肥満薬市場の中心になっている状況が紹介されています。
この流れは日本にも及び、肥満症を医学的に治療する新しい選択肢として期待される一方、
「美容・痩身目的の安易な使用」という別の問題も生じているのが現状なのです。
GLP-1「痩せ薬」とは?もともとは糖尿病治療から始まった
GLP-1は食事により腸から分泌されるホルモンの一つです。
GLP-1には、
- 血糖値に応じてインスリン分泌を促す
- 胃から食べ物が送り出される速度を遅くする
- 脳に働いて食欲を抑える
- 満腹感を持続させる
などの作用があります。
この働きを利用したのが「GLP-1関連薬(GLP-1受容体作動薬)」なのです。
GLP-1関連薬は、もともとは2型糖尿病治療薬として開発されたのですが、体重減少作用が大きいことが分かり、肥満症を対象とした製剤も開発されたという経緯なのです。
マンジャロなどのGLP-1関連薬の開発のヒントとなったのは、アメリカ毒トカゲの唾液の毒液成分でした。
そのトカゲは砂漠に住み、年に数回だけドカ食いをするのです。通常なら血糖値が爆上がりするのですが、外敵を倒す毒唾液には「血糖をコントロールし次の食事まで数ヶ月間の代謝を保つ」という成分が含まれることが分かったのです。科学者たちはこの成分から「血糖値を下げる成分」だけを抜き出し、さらに効果が持続するように改良したのです。

名前が似ていても「糖尿病治療薬」と「肥満症治療薬」は別です
同じ成分や似た作用を持つ薬でも、承認された目的(適応症)や用量は同じではありません。
国内で承認されたGLP-1関連薬は5種類あります。
- 2型糖尿病治療薬:3種類
- 肥満症治療薬:2種類
なのです。
すなわち、「マンジャロをダイエット目的で使う」ことは承認されておらず、
日本でのGLP-1関連薬の抗肥満薬としての承認・普及は米国や欧州に比べて適用条件も非常に厳しく制限されています。
なぜネットでは「マンジャロ」ばかりが注目されるのか
日本のネット広告やSNSを見ると、ウゴービやゼップバウンドよりも「マンジャロ」という商品名を目にする機会が多くなっています。
マンジャロの成分はチルゼパチドです。GIP受容体とGLP-1受容体の2つの受容体に作用し、臨床試験で大きな体重減少が確認されたことから、「よく痩せる薬」として一般にも名前が広がったようです。
しかし、ここで区別が必要です。
- マンジャロ(チルゼパチド) :日本では2型糖尿病治療薬
- ゼップバウンド(チルゼパチド):日本では肥満症治療薬
成分は同じチルゼパチドでも、商品ごとに承認された効能・効果、用法・用量が定められています。
「体重が減る作用がある」ことと、「痩せる目的で承認されている」ことは同じではありません。
厚生労働省も2026年6月16日、「マンジャロは2型糖尿病のみを効能・効果として承認されている」として「痩身目的での使用を止めるよう」改めて注意喚起しています。
👉 厚生労働省:GLP-1受容体作動薬等の適正使用について(2026年6月)
日本でGLP-1関連の肥満症治療が保険適用になる条件
「肥満なら誰でも保険でウゴービやゼップバウンドなどのGLP-1関連薬を使える」と思う方もいるかもしれませんが、実際にはかなり厳しい条件があります。
さらに、次のどちらかを満たす必要があります。
- BMI 27以上
- BMI 35以上
日本肥満学会の基準では、BMI 25以上が「肥満」、BMI 35以上は「高度肥満」に分類されます。
日本肥満予防協会の推定では、
「BMIが35以上の肥満」は日本成人のうち、約0.2%〜0.3%で1,000人に2〜3人程度、
「BMIが27以上」に絞ると、大まかな目安として成人男性の約15〜20%程度、女性の約7〜10%程度が含まれると考えられているようです。
成人の約40%以上が「BMIが30以上の肥満」に該当するといわれる米国とは大きく事情が異なるのです。
抗肥満薬の適用はBMIだけでは決まらない
GLP-1関連薬が適応になる肥満はBMIの基準だけではありません。
BMIが35以上の肥満者では、さらに、高血圧、脂質異常、糖尿病などが併発していることが条件で、
BMI27以上の場合にも、耐糖能障害、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症・痛風、冠動脈疾患、脳梗塞、脂肪性肝疾患、月経異常・不妊、睡眠時無呼吸症候群、運動器疾患、肥満関連腎臓病などの健康障害があることが条件として付けられています。
保険診療では「6か月の食事・運動療法」が大きな条件
さらに、保険診療となると更に厳しくなります。
GLP-1関連薬は肥満症治療の「最後の手段」なのです。
ウゴービやゼップバウンドを肥満症に保険で使用する場合には、原則として、
- 治療計画を作る
- 食事療法・運動療法を行う
- 管理栄養士による栄養指導を受ける
- それを6か月以上続けても十分な減量効果が得られない
という経過が必要なのです。
さらに、処方できる医療機関には専門医や管理栄養士などが常在していることが条件で、
保険診療での投与期間には、
- ウゴービ :原則68週以内
- ゼップバウンド:原則72週以内
という上限が設定され、治療計画が求められているのです。
ウゴービとゼップバウンドはどのくらい痩せるのか
ウゴービは2024年2月に国内販売が始まり、ゼップバウンドも2025年春から国内で使われるようになりました。
ウゴービ
日本人を含む東アジア人を対象にした臨床試験では、生活習慣への介入を行ったうえで、セマグルチド2.4mg群の68週後の体重は平均で約13%減少しました。
ゼップバウンド
ゼップバウンドのチルゼパチドは、GLP-1受容体だけでなくGIP受容体にも作用します。
海外臨床試験では72週時点で20%以上の体重減少を達成した人が、10mg群で約57%、15mg群で約64%に達しました。
ただし、どちらの試験も食事・運動などの生活習慣介入を併用しており、「注射だけで同じだけ痩せた」ということではなく、
- 食事療法
- 運動療法
- 治療薬
の3点セットなのです。
これは糖尿病治療の3点セットと同じですね。
適応外や自由診療での使用が拡大|2026年6月に厚労省が通知
厚生労働省の薬価収載時の市場予測では、ピーク時の使用患者数は、
- ウゴービ :約10万人
- ゼップバウンド:約13万人
と見込まれていました。
ただし、これは実際の使用患者数ではなく、薬価算定時の市場規模予測です。2026年8月時点で、肥満症目的の国内使用者数をリアルタイムに示す公的な統計は確認できません。
しかし厚生労働省は2026年6月16日、
一部の医療機関で2型糖尿病や肥満症の治療目的以外に、美容・痩身目的でGLP-1関連薬が使用されている実態があるとして、都道府県などを通じて医療機関に適正使用を求める通知を出しました。
通知では、適応外で使用した場合の安全性・有効性は確認されておらず、思わぬ健康被害につながるおそれがあることに加え、
ウェブ広告についても費用だけでなくリスクや副作用などの情報提供が必要で、虚偽・誇大広告や優良性を強調する比較広告などは禁止されているとしています。
👉 GLP-1関連薬ダイエットに相次ぐ注意喚起|厚労省・糖尿病学会などの見解
オンライン診療やインターネットでの販売が拡大
インターネットやLINEなどでは、
「スマホ完結」
「○mgが○円」
「業界最安水準」
などと、GLP-1関連薬による痩身目的での使用を謳った販売が目に付きます。
医薬品の効能・効果について虚偽・誇大な広告を行うことは薬機法で規制されています。芸能人やインフルエンサーによるSNS投稿でも、広告・宣伝として行われ、その内容が虚偽・誇大な効能・効果の広告などに当たる場合には、薬機法上の問題になる可能性があります。
👉 かまいたち山内のGLP-1ダイエット|当時の経緯を振り返る
美容・痩身目的の適応外使用やオンライン診療・SNS広告の問題については、別記事で詳しく解説しています。
肥満症治療を希望する場合は、価格や手軽さだけを強調した広告で判断せず、まず肥満症の診療を行っている医療機関で、自分が医学的な治療対象なのかを確認することが大切です。
👉 GLP-1関連薬の自己判断での使用は危険|美容目的・適応外使用の注意点
チルゼパチドは投与をやめると体重が戻りやすい
チルゼパチドの大きな体重減少効果だけでなく、投与を中止した後にどうなるかも重要です。
肥満または過体重の成人を対象としたSURMOUNT-4試験では、チルゼパチドを36週間投与した時点で体重は平均20.9%減少しました。その後52週間、投与を継続した群ではさらに5.5%減少した一方、投与を中止してプラセボに切り替えた群では、36週時点から平均14.0%体重が増加しました。
その後の解析でも、中止した人の多くで体重の再増加が確認されています。
したがって、「数か月だけ使って痩せ、目標体重になったらやめれば終わり」というほど単純な治療ではありません。
「中止すれば全員が必ず元の体重まで戻る」という意味ではなく、
正確には、チルゼパチドの中止後には体重が再増加しやすく、減量効果の維持には長期的な体重管理が必要だということです。
GLP-1関連薬の自己投与では副作用が心配
GLP-1関連薬の比較的よくみられる副作用は、
- 吐き気
- 嘔吐
- 下痢や便秘
- 腹部の不快感
- 食欲低下
などの消化器症状が挙げられています。
また、頻度は高くありませんが、注意すべき重大な副作用として、
- 急性膵炎
- 胆嚢炎・胆管炎などの胆道系疾患
- 腸閉塞を含むイレウス
- 嘔吐や下痢に伴う脱水・急性腎障害
などがあります。
特に2025年にはセマグルチド、チルゼパチドなどについて、腸閉塞を含むイレウスへの注意が添付文書に追加されています。
これらの点からも自己判断による投薬をするべきではありません。
「痩せたい」と「肥満症を治療する」は違う
体重を5kg落としたり、結婚式までに痩せたい、夏までに体型を整えたい、これは美容上の希望です。
一方、医学的な肥満症治療は、糖尿病、高血圧、脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群、脂肪性肝疾患、腎臓病など、肥満によって起きている健康障害を改善することが目的なのです。
同じ「体重を減らす」でも目的がまったく違うのです。
肥満と肥満症は違う:あなたは単なる肥満かもしれない
肥満 : 体に脂肪がたくさんついた状態
・基準: 体格指数(BMI)が25以上
・ 体型や体重の数値のことで病気ではない
肥満症 : 肥満が原因で体に悪い影響が出ている状態
・ BMI 25以上で
・高血圧・糖尿病・脂質異常症などの健康障害がある
・内臓脂肪がとても多くて将来病気になるリスクが高い
・ 医師による治療や体重を減らすことが必要な病気
まとめ|GLP-1関連薬は「誰でも使える痩せ薬」ではない
GLP-1関連薬は肥満症治療を大きく変える可能性を持つ薬です。
ウゴービやゼップバウンドでは大きな体重減少が臨床試験で確認され、肥満によって健康を損なっている人にとって重要な治療選択肢になりました。
しかし日本で保険診療の対象になるのは、単に太っている人ではありません。
- 一定のBMI
- 肥満関連の健康障害
- 食事療法・運動療法を続けても十分な効果が得られない
- 専門的に管理できる医療機関で治療する
といった条件があります。
そして、糖尿病薬のオゼンピックやマンジャロを「痩せ薬」として安易に使うことと、肥満症治療薬を適正に使用することは同じではありません。
GLP-1関連薬は魔法の薬ではなく、食事・運動を基本とする肥満症治療の一つの選択肢です。
体重が気になるだけで自己判断するのではなく、肥満による健康障害がある場合は、まず医療機関で肥満症に該当するかをきちんと評価してもらうことが大切です。
最終更新日:2026年8月













